(4コマ漫画)防災は虚構だ。建設利権が決める命の序列


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治山や治水によって救われる命がある

確かにそうかもしれません。我々日本人は、そのように騙されてきました。堤防や水門、砂防ダムや崩落防止施設の建造によって救われる命もあるでしょう。何人くらい救われるんですか? その為に、どれだけコストを掛けてるんですか。

2010年秋の事業仕分けで議論された国土交通省のスーパー堤防事業は、12兆円の予算規模で400年もの期間を掛けて工事するという壮大な計画が、効果がはっきりしない「無駄な事業」との意見が相次ぎ廃止に追い込まれたのは記憶に新しいところです。(廃止されても、過去20年間に支出済の7000億円の工事代金は返っては来ません)[1]

では、スーパー堤防は何に対して効果が薄いのか。同種の土建事業であるダムや堤防、水門や排水施設に対して効果が薄いと仕分け人は言いたいのかもしれません。しかし、それすら土建利権に刷り込まれた虚構に過ぎません。

総務省によれば、2007年の総死亡者数は1,108,334人。そのうち病気によって死亡するのが約882万人、老衰と自殺がそれぞれ3万人、交通事故が5000人、労災が1000人、殺人の被害者が800人となっています。では、自然災害による死亡者数は… たった100人程度です。[2]

結核による死者数2000人、季節性インフルエンザによる死者数600人に比べても自然災害の死亡者数は少ないですね。防災事業によって救える命は、他の死因に比べて遥かに少ないのです。

公共事業をやめることで、救える命が『たくさん』ある

1年間に自殺する人は約3万人[3]です。自殺対策として、駅前で啓発ティッシュペーパーを配ったり、通話料無料の電話相談を開設しているのは広く知られています。でも、自殺者数うなぎ上りです。世界で自殺率ベスト10に不動の地位[4]を得ても何も嬉しくないですね。

平成21年度の東京都予算[5]によれば、防災関連予算は384億円[6]もあるのに対して、自殺対策予算はたったの7300万円[7]です。これじゃあ、『人よりコンクリート』と言われても仕方ないでしょう。

地震についても同じです。数十年後に起こるかもしれないレベルの南関東直下地震の予想死者数は1万3千人[8]、1995年に発生した阪神・淡路大震災での死者数は6,434名に過ぎず、そのうち80%は木造家屋の下敷きで即死であったと言われています[9]。どちらにしても、年間の自殺者数より遥かに少ない死者数ですね。

地震で公民館や学校が地震で倒壊したという話は(日本国内では)ほとんど耳にしませんが、膨大な予算を費やして公共施設の耐震化が行われています。津波に対する防潮水門や堤防も整備されていますが、個人の住宅の不備で建物が倒壊したり水没したりすることによる死者はちっとも防げませんね。そもそも、世界一の防災施設といわれた岩手県宮古市田老地区の防潮堤が、東北大震災では役に立たず多数の死者を出したのにみられるように、防災施設の安全神話にもほころびが出ています[10]。危険を察知し迅速に避難する、丈夫な家を建てる、過去の水害に耐えるだけの嵩上げした家を建てるのは個人責任であって、国家が云々という種類のものじゃありません。

話題のインフルエンザ。季節性インフルエンザによる死者数は毎年640人(1989年〜2009年平均)で、インフルエンザが原因で他の疾患が悪化するなどして死亡した超過死亡者数は2005年は15,100人、2006年は6,849人です[11]。昨今、新型インフルエンザが発生すればさらにたくさんの死者が予想されているようですが、日本にワクチン製造能力はほとんどありません。

日本国内でワクチンを製造できるのは4社(化学及血清療法研究所、北里研究所、デンカ生研、阪大微生物病研究会)で、製造能力は年間3500万人分(2回接種)と言われています。2009年の新型インフルエンザパニックでは、海外メーカー(グラクソ・スミスクラインとノバルティス)から9900万回分のワクチンを1100億円もの金を出して購入した挙句、季節性インフルエンザすら収束に入る年明けに納品されてほとんど余ってしまう始末。穴をほって埋めるだけの土建公共事業に無駄な金を費やすのなら、公共事業として毎年ワクチンを製造するほうがよほどマシな支出だと思います。それによって、いざというときの製造能力が担保できるのです。

ちなみに、国の22年度予算では国土交通省の治山治水予算が1兆4950億円[12]に対して、厚生労働省の"新型インフルエンザへの万全の対応"予算がたったの116億円[13]です。"万全"の言葉も虚しく、国民の命を軽視するにもほどがありますね。

いつ起こるか分からない遠い将来かもしれない地震対策に厖大な予算を費やし、防災訓練などと称して国民に危機感を煽るだけ煽って、毎年のようにやってくるインフルエンザにはワクチンがそもそも足りない。襲来が数年後とも言われている強力な新型インフルエンザに対して、土建防災の数百分の一の予算も費やさない。これが、まともな文明国のやることでしょうか。

水害も経済効果。そこまでして防ぐ理由はそもそも無い

昨今のダム不要の議論で話題に上がる、欧米のように洪水原(遊水地)の思想を取り入れる手法もあるようです。大雨の時、堤防の切れ目から緩やかに水をあふれさせることで、破壊的な洪水を防ぐ日本でも取り入れられていた先人の知恵[14]を無視して、土建利権に邁進した結果が現在の姿でしょう。浸水した住宅は補修が必要になりますし、家具も買い換えないといけないはずです。貯蓄を取り崩して家屋修繕や家具買い替えで支出することは、いろいろな分野での総需要を上昇させて景気全体を上向かせることも出来ます。

最近では、不動産所有者の防災責任を自覚させるために、低地にある建物の嵩上げを義務付ける条例を制定しようとする自治体[15]もあるようですが、補修を義務付けるのは財産権の侵害だと反対する声もあるようですね。

最後に、ここで防災に対しての比較対象に挙げた自殺者数とインフルエンザによる死者数は一つの例に過ぎず、例えば、交通事故死者数を減らす対策をしたり、肺癌死者数を減らすために喫煙対策をしたりするというのもあるでしょう。いづれにしても、次の章のグラフを見ればわかるように、不慮の死者の中でも最も可能性の低い自然災害だけを取り上げて、さぞ大問題であるかのごとく振舞う日本の国のあり方は滑稽でもあり、軽蔑すべきものでしょう。

参考資料

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グラフのデータと出展(OpenOffice Calc形式)

出展

  1. 朝日新聞 スーパー堤防事業「廃止」 事業仕分け第3弾 http://www.asahi.com/politics/update/1028/TKY201010280413.html
  2. 総務省 主要死因別死亡者数 http://www.stat.go.jp/data/nihon/g4821.htm
  3. 総務省統計局の主要死因別死亡者数によれば平成21年の自殺者数は30827人 http://www.stat.go.jp/data/nihon/g4821.htm
  4. 自殺率の国際比較 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2770.html
  5. 東京都 平成21年度主要事業 http://www.metro.tokyo.jp/INET/KEIKAKU/2009/02/70j2a101.htm
  6. 建設局予算のうち 中小河川の改修、河川防災事業、高潮防御施設の整備、スーパー堤防等の整備、東部低地帯における耐震対策の推進、砂防海岸施設の整備の合計384億2300万円。都市整備局の民間住宅への耐震・不燃化等の補助は合計には含まない。
  7. 福祉保健局の自殺対策予算より
  8. Wikipedia「関東直下地震」中央防災会議の報告では、(地震が)最も大きい場合、死者約13,000人 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E9%96%A2%E6%9D%B1%E7%9B%B4%E4%B8%8B%E5%9C%B0%E9%9C%87
  9. Wikipedia 「阪神・淡路大震災」死者の80%相当、約5000人は木造家屋が倒壊し、家屋の下敷きになって即死した。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%AA%E7%A5%9E%E3%83%BB%E6%B7%A1%E8%B7%AF%E5%A4%A7%E9%9C%87%E7%81%BD
  10. 週刊ダイヤモンド “釜石の奇跡”の立役者があぶり出す安全神話の虚構
  11. インフルエンザ死亡者数 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1955.html
  12. 平成22年度国土交通省関係予算概算要求概要 http://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_000494.html
  13. 厚生労働省 追加要求の主要事項等 http://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/10syokan/dl/syuyou4.pdf
  14. 治水の知恵アジア変える 「自然との共存」説く信玄堤 http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/yamanashi/feature/kofu1230727493032_02/news/20090116-OYT8T00984.htm
  15. 浸水危険域に建築規制…滋賀県、治水条例提案へ