エーゲ海からバルカン半島旅日記 : ブダペスト
October 1, 2003 (Wednesday)
Budapest - Hungary (ブダペスト - ハンガリー)
Brașov(21:35発)→ Budapest(07:10着)Train EN370, 243号車 34ベッド 2等簡易寝台車 運賃 1,549,000レイ(5059円)
7時過ぎに目覚め、窓の外を見ると濃い霧に覆われている。窓にはびっしりと水滴がついていて、外はかなり寒いのだろう。ブダペストの郊外列車と並走するとすぐに、終着駅ブダペスト東駅(Budapest Keleti pu)に到着。ルーマニア時間で8時10分。ハンガリーは時差1時間なので、現地時間7時10分。朝日の差し込むプラットホームに降り立つ。さて、これから宿探し… 人の流れに沿ってコンコースのほうへ向かって歩いていると、おばあさんに呼び止められる。おばあさん:「Do You Need Room ? It's 13 Euro !」。街の中心部や鎖橋まで歩いて20分程度の所にある『プライベートルーム』だそうだ。客引きのおばあさんも悪そうな人に見えないので、ついていってみる事にする。
Keleti pályaudvar(07:20頃発)→ Szent Gellért térBus, line 7 無賃乗車
駅前から超満員の7系統のバスに乗る。おばあさんは回数券らしきモノを持っているが、まだバリデートしなくても大丈夫だと言っている。超満員で検札できないことを逆手に取った無賃乗車。現地人恐るべし。ラコーツィ通りを東へ、街の中心部を通り抜けてエルジェーベト橋を渡りドナウ川対岸へ。そこから川沿いを走り、緑色の鉄橋(自由橋)の横で下車。おばあさんの家は自由橋のすぐ目の前の巨大アパートのようだ。
いかにも共産主義時代に建てられた無機質なアパートだが、一般労働者向けではなく少し階級の高い人向けの造りだ。エレベーターで3階へ。私が泊まる部屋はフランス人とシェアらしく、そのフランス人はまだベッドで眠っている。今晩の宿賃13ユーロ(1677円)支払う。2泊目は、明日夜にシェアする人間が居れば13ユーロ、部屋を独占する場合は26ユーロだそうだ。安くなるかどうかは『明朝のおばあさんの働き次第』ということか…。
部屋に荷物を置き観光に出かける。アパートの隣は、ゲッレールト温泉のある高級ホテルだ。オスマン帝国時代に、裏手にあるゲッレールト山から湧き出るお湯を使った温泉をこの場所に造ったのが始まりだそうだ。アパートの風呂の湯も温泉水… そんなわけないか。
19世紀末に架けられた自由橋(サバッチャーグ・ヒード)を渡る。建設当時はハプスブルク帝国皇帝の名前を取ってフランツ・ヨゼフ橋と名付けられていたそうで、緑色の鉄橋の橋脚のてっぺんには、鷹ではなくハンガリー史の神話上の鳥『トゥルル』が羽ばたいている像が乗っかっている。ガタンゴトンと路面電車がひっきりなしに行き交う橋を渡りきりドナウ川対岸に出る。
中央市場(ナジサルノク)があるので入ってみる。19世紀末に建てられた巨大なホールには整然と食料品店が並んでいて、東欧でよくありがちな『雑然とした屋内市場』と違って、どこか日本のデパ地下に近い高級感が溢れている。
歩行者天国のヴァーツィ通りを縦断して、デアーク・フェレンツ広場へ。これで、下町のショッピング街をほぼ縦断したことになるが、早朝なのでお店は開店前で、通りは通勤客が歩いているくらいで閑散としている。
その中で唯一オープンしていたマクドナルドで朝食。ハンバーガー、フレンチフライ、紅茶で450フォリント(225円)。
Deák Ferenc tér M(10:00発)→ Dísz tér(10:10着)Bus, line 16 運賃 120フォリント(60円)
デアーク・フェレンツ広場駅の切符売り場で10枚綴りの回数券(1,200フォリント, 600円)を買って、16系統のバスに乗りブダ城を目指す。やや小ぶりのバスはセーチェーニ鎖橋を渡ってドナウ川西岸のブダ地区へ。そこから急なつづら折りの坂を登りきって、丘の頂上のブダ城前バス停で下車。直線距離はたいしたことないが、標高差を考えればバスに乗るのが正解だろう。
丘の上には各国から来た沢山の観光客が歩いている。多くの人は丘の北側にあるマーチャーシュ聖堂の方へ向かうようだが、私はまず南側にあるブダ城に向かう。ブダ城は13世紀に建てられた建物だが、戦争などで破壊されたため第二次大戦後に原形を留めないほどの大規模な修復がされている。いわば、テーマパークのお城のようなものか…。現在では、国立美術館や国立図書館として使われているそうだ。
ドナウ川に面したテラスから市街地を眺める。市街地からの標高差は50mほどしかないが、眼下の鎖橋とドナウ川の向こうにある国会議事堂や聖イシュトバーン大聖堂などの重厚な建物が、一つの絵の中にあるかのように見えている。
ブダ城を後にして、観光客があふれるマーチャーシュ聖堂に向かう。ゴシック様式の教会で、カラフルな模様の屋根が目立っている。14世紀の建物を、19世紀に修復した時に色とりどりの焼き物の瓦葺きにしたそうだ。入場口には長い行列が出来ていて、とてもじゃないが並んでみる気にはならなかった。
丘の上の町並みをぐるっと一周してみる。ドナウ川と反対側の崖沿いは並木道の公園になっていて、紅葉して黄色いトンネルになっている。マーチャーシュ聖堂横の漁夫の砦を通って、今度は歩いてブダの丘を降りる。登るのは辛そうな急な坂道も、降りるのは気持ちいいものだ。あっという間にセーチェーニ鎖橋まで来る。
19世紀に架けられた橋は、第二次大戦時にドイツ軍が破壊し、現在の橋は戦後に一部架け替えられたものだ。Wikipediaの記事によれば、かつてはチェーンを用いた吊り橋も沢山あったそうだが、チェーン自体が重く不利なため、ワイヤーケーブルの吊り橋に変わっていったそうだ。しかし、このセーチェーニ鎖橋だけは街のシンボルとして鎖のままで修復を行ったとのことだが、それほど愛着のある鎖には至る所に落書きがされている。先人の思いは、現代人には全く通じなかったのだろう。
朝、バスに乗ったデアーク・フェレンツ広場まで戻ってきた。すぐ北側には、ブダ城前のテラスから見えていた聖イシュトバーン大聖堂がある。このあたりは官公庁や事務所が集まっているようで、昼休みで沢山のオフィスワーカーが昼食に出てきている。沢山の人で賑わっている一軒の中華料理屋(東方快餐)に入る。カウンターに並んでいる料理を指さして皿に取り分けてもらい、電子レンジで温めて食べるタイプの中華ファストフード店だ。八宝菜のようなおかず2品にご飯、ジュースで750フォリント(375円)。
食後、聖イシュトバーン大聖堂を見に行く。入場料がなんと2,000フォリント(1,000円)と、昨日までのルーマニアでの物価水準に慣れているので、ムチャクチャ高く感じる。20世紀初めに建てられたカトリック教会の内部は、美しい大理石や黄金のモザイク、フレスコ画などに覆われて確かに綺麗だが、1,000円出す価値があるかといえば…。
次に向かったのは国会議事堂。大聖堂からは歩いて10分ほどだ。議事堂の前には何らかの抗議活動を行う農家の人が、牛を引いてのんびりと練り歩いている。ゴシック・リヴァイヴァル様式の議事堂は、真ん中のドームの高さが96mと巨大だ。
Szent Gellért tér(14:00頃発)→ Batthyány térTram, line 19 運賃 120フォリント(60円)
一旦プライベートルームに戻り、水着とタオルを持って温泉に向かう。19系統トラムに乗り、ドナウ川沿いの終端駅バッチャーニ広場で下車。さらにドナウ川の上流方向に向かって5分ほど歩くと、ボロボロのレンガ造りの建物のキラーイ温泉がある。建物の外見から分かるように、ここはトルコにあるハマム(一種のサウナ)と同じような所らしい。入口には『本日、女性専用』と掲示されていて、残念ながら入れない。さらに10分ほど北に歩くと、巨大な温泉療養施設のルカーチ温泉がある。医者の処方箋を持ってきた場合の特別価格など、いろいろな『コース』があるらしいが、普通に大浴場に入るだけの一番安いチケットを買う(1,200フォリント, 600円)。
施設の中庭を横切り、温泉の入口へ。白衣を着た係員が居る改札口にチケットを挿し込み中へ。男女混合部屋の巨大な更衣室は小さなブースが並んだ形になっていて、狭い通路の角ごとに居る係員に空いているブースを割り当ててもらう方式のようだ。着替え終わると、係員がやってきてロッカーに鍵を掛けてくれる。水着に着替えて、サンダルを履いて温泉へ。薄暗い温泉の部屋はかなり古いもののようで、おそらくこの建物が建てられた19世紀末のものなのだろう。屋外には温泉プールもあるが、こちらは水泳キャップを持っていないと入れないようだ。温泉を出るときには再び改札機があり、チケットを読み取らせると利用時間での精算が行われる。私は利用時間が規定より短かったらしく、400フォリント(200円)返金された。
温泉まで来る道沿いで見かけたインターネットカフェまで戻り、1時間ほどネット閲覧(440フォリント, 220円)。ドナウ川に浮かぶ中洲が公園となっているマルギット橋を渡り、ドナウ川左岸のペシュト地区側へ。昼ごはんを食べた店の近くにある、別の中華料理店に入り夕食(1150フォリント, 575円)。オフィス地区なので、夕方はあまりお客さんがおらず空いている。中国語の新聞をじっくりと読みながら食事する。
夕方、セーチェーニ鎖橋辺りに夜景撮影に行く。鎖橋がオレンジ色にライトアップされているのは予想通りだが、ブダ城や国会議事堂も眩しいくらいにオレンジ色のライトで照らされている。川面を渡る風が結構寒く、日本で言えば晩秋くらいの冷え込みを感じる。
Clark Ádám tér(19:30頃発)→ Szent Gellért térTram, line 19 運賃 120フォリント(60円)
鎖橋の袂より19系統トラムに乗る。薄暗い裸電球に照らされたトラムの車内には、乗客は数人しか乗っていない。プライベートルームに戻ると、20歳くらいのフランス人男性が戻ってきていた。明日、プラハに向けて出発するそうだ。夜景撮影で体が冷え切っているので、シャワーを浴びる。シャワールームには、なぜか壊れた食器洗い機が放置されていて狭かった。
Room of Locals : room 27, XI. Bartók Béla út 313ユーロ(1677円)/1泊
October 2, 2003 (Thursday)
7時15分起床。フランス人はまだ寝ているので、そぉっと歯を磨いてから外へ。今日も快晴のいい天気だ。自由橋を渡ってドナウ川東岸の市街地へ。この時間帯に開いている店は殆ど無く、昨日と同じくデアーク・フェレンツ広場のマクドナルドで朝食(チーズトースト、ハムトーストと紅茶で450フォリント, 225円)。
2週間近く、かなりのペースで移動しながら旅行をしてきたため、今日はのんびりと無為に過ごそうと思う。昨日はバスやトラムを使ったが、今日は歩いてブダ城の丘を目指す。鎖橋を渡り、城に向かうケーブルカーの駅がある公園に来る。『ゼロ』という巨大な文字に掘り抜かれた石像がある。ハンガリーの国道はここが起点だという事を示す『ゼロ キロポスト』だそうだ。そう言われてみると、分かりやすい形をしている(笑
急な坂道をのぼり、マーチャーシュ聖堂の前へ。まだ朝早いので、昨日見たような大量の観光客はまだ現れていないので、絶好の写真撮影タイムだ。再びドナウ川を渡り国会議事堂付近まで歩き、丁度昼頃になったので昨日入った中華料理屋で昼食。鶏肉と野菜の炒め物と春雨サラダの定食で950フォリント(475円)。サラリーマンが12時頃に大挙してやってくる前、11時45分ごろには近くの工事現場の作業員が大量に来店していた。持ち帰りもできるので、客の回転率がよくとても儲かっている雰囲気の店だ。
食後、ペシュト地区の中心部を東へ歩く。デアーク・フェレンツ広場から少し東へ行った所にシナゴーグがある。ラムバッハ通りシナゴーグと呼ばれているこの建物は19世紀中頃にムーア・リバイバル様式で建てられたものだ。『ムーア人』=『北勢アフリカのベルベル人』という意味らしいので、まあ、モロッコ風を真似たというところなのだろうが、イスラムとは敵対関係のユダヤがイスラム建築を真似るとは…。更に東に行くと、雑居ビルが増えてきて、ルーマニアから乗った列車を降りたブダペスト東駅に行きあたる。
一旦、自由橋横の泊まっているアパートまで戻り、今度はブダ地区の南の住宅街を歩いてみることにする。アパートの前の路面電車の走る通りを南へ。道の左側はブダペスト工科経済大学の広大なキャンパスとなっていて、底には入らずにまっすぐに進む。10分ほど歩くと、道沿いの建物は都会の雑居ビルから低層アパートや住宅の並ぶ郊外住宅地の風景になる。住宅街の中にフェネンケルテン湖公園(底なし湖公園)というのがある。名前とは違って、芝生と背後の真っ白な教会が美しい都会のオアシスだ。なんで底なし沼と名付けたのだろう…。
周辺のアパートは、一つ一つが違うデザインで建てられていて、共産主義国の郊外住宅にありがちな画一な建物が延々と並んでいる街並みとは、かなり違う印象を受ける。ハンガリーは、一昨日まで滞在していたブルガリアやルーマニアより経済水準が高いので、街並みの清潔さや、走っている自家用車の車種も少しだけ『高級感』を感じる。この地区のトラムやバスの乗換駅的なMóricz Zsigmondロータリーに面したカフェに入り、ケーキと紅茶で休憩(320フォリント, 160円)。
Szent Gellért tér(17:10頃発)→ Fővám tér → Eötvös térTram, line 47,2 運賃 120フォリント(60円)
17時ごろ、昨日夕食を食べた中華料理屋へ(950フォリント, 475円)。食後、ドナウ川沿いからブダ城方向に沈む夕日を眺める。城のドナウ川に面したテラスにある伝説の鳥トゥルル像が、夕焼けの真っ赤な空に黒いシルエットとなって大きな羽根を広げている。
繁華街ヴァーツィ通りを歩く。『ヤクザ・タトゥー(入れ墨)』と書かれた看板を出した店がある。ヨーロッパではヤクザに憧れる人が多いのか…。19時頃、アパートに戻る。フランス人が退去した後、今日は新しい客は見つからなかったようだ。家主の営業不足だが、何故か客がそれをかぶるという理不尽さがここにはある。ベッド1つ分が13ユーロなので、半額に負けさせて7ユーロ追加で支払うことにする。結果、1泊20ユーロ。
Room of Locals : room 27, XI. Bartók Béla út 320ユーロ(2580円)/1泊
October 3, 2003 (Friday)
5時45分起床。6時20分、鍵を部屋のテーブルに置いて外へ。外ままだ真っ暗で、道路はオレンジ色の街灯に照らされている。寒風吹きすさぶ自由橋を歩いて渡り、地下鉄3号線のカールヴィン広場駅へ。ここから終点のケーバーニャ・キシュペシュト駅まで地下鉄に乗る。通勤ラッシュとは逆向きなので列車は空いていたが、終点駅で列車を降りると都心に通勤する人の人波にもまれることになる。やっとのことで改札口を出て、コンコースのキオスクでホッドドックとミネラル水で朝食とする(180フォリント, 90円)。
Kálvin tér(06:42頃発)→ Kőbánya-Kispest(06:57頃着)Metro, line 3 運賃 120フォリント(60円) Kőbánya-Kispest(07:20頃発)→ Liszt Ferenc Airport 2(07:40頃着)
Reptér-busz 運賃 120フォリント(60円)
地球の歩き方では、ここから93系統のバスに乗ると書かれているが、バス停で待っていても一向にバスは来ない。駅前のバス停に停車しているバスを眺めてみると、方向幕に飛行機のピクトグラムとReptér-buszと表示されたバスが停車している。運転手に聞いてみると、確かに空港行きだそうだ。そのバスに乗り、空港へ。途中のバス停をほとんどすっ飛ばして急行運転で、あっという間に空港の第二ターミナル前に到着。10時40分発のKL1372便でアムステルダムに戻る。
Budapest(10:40発)→ Amsterdam, Schiphol(12:50着)KLM 1372